懇願

出張中に乗ったバスの中で、15年ほど前に亡くなった祖父の話を思い出した。

幼少の頃、僕は近所を走る『関東バス』のファンだった。祖父は、その関東バスの玩具をしきりにせがむ孫に、何とかしてそれを買い与えたいと考えたが、特徴のない一般の路線バスが玩具になるはずもなく、どこを探しても見つからなかったのだそうだ。そして、祖父は最終手段として、バス会社に電話をかけることにしたらしい。

『あの〜、孫が欲しがってるので、バス、売ってください』

電話をとったバス会社の人はさぞ驚いただろうなと思うと同時に、その玩具が手に入らなかったことでこのエピソードが生まれたのだとしたら、欲しいものが手に入らないというのも、さほど悪いことでもないのかもしれないと、ぼんやり考えた。